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【悶々と】萌えキャラ『日本鬼子』製作30 【萌え】

328 :創る名無しに見る名無し:2013/03/12(火) 00:14:34.44 ID:XAYpY3iI
 荒々しく中身をぶちまけられた空桶は虚しく足元に転がっていた。
自分を嘲笑っていた水鏡は、地面にジトリと濡れ広がって染みて行き、姿を映し返す事など出来ずに其のまま消え去った。
其れでも若者は、不愉快な気持ちを思い起こさせたのは貴様のせいだと咎めるように、転がっていた空桶を蹴飛ばした。
蹴られた桶は、言い掛かりのない怒りに対して抗議の一声を上げたのか、カラーンと一音響かせ井戸の底へと落ちていった。
 心に湧き上がる、訳の判らぬ憤りに囚われた若者は蹴りこんだ桶の一音にさえ、笑いながら逃げてゆく嘲笑の囃し立ての響を感じて怒らんとした。
自分に取って、筆を取って文字を書き紙に心を留める上で、相棒とも言える右手のひらを、硬く握って拳にして井戸を囲む石組みに叩き付け様と振りかぶった其の時に、背後で怯えたような一声に、思わずその身を凍らせた。
 「さ・参之若様…?」
 背後の声は、少し離れた廊下の角から、声を掛けるのを躊躇うように発せられた。
自分のみっともない姿を見られたのか、慌てて向き直った視線の先に、半身を隠すようにして立つ娘の姿が一つ有った。
 「あぁ、小梅殿で御座いましたか…。」
 自分の怒りの姿を見られた気恥ずかしさに、若者はポツリと返事をして黙り込んだ。
娘の方は暫し若者の様子を見た後で、小さな声で
 「母が、お呼びして来るようにと…。
あちらに食事の支度が整って御座いますから」
と言った。
其れから、静かに廊下の角から姿をだして、廊下の端に立ち進んで、
 「どうしたので御座いましょうか?
参之若様らしからぬ、何か怒っていらしたような様子で御座いましたが?」
と問いかけた。
其の様子は、普段通りの優しい若者の雰囲気に戻ったようだと見定めたのか、怯えた様子も消え去って、大層優しげで親しさのこもったものだった。
 「いやいや、、、これはお恥ずかしい所を見られましたな。
いや何、昨夜、少々酒が過ぎまして。たかだかあれしきの量の酒で二日酔いになって呻いている自分が不甲斐なく、自分で自分に怒っておりました」
 乾いた笑い声を2,3上げて、先程までの憤怒の思いが浮かんだ表情を、フッと消し去り、冗談に紛らわせるように答える若者の姿が有った。
 まぁ、嘘は言っていない。自分自身に対する怒りは常にある。それに、この娘を怖がらせた所で意味は無い…。
小梅と呼ばれた娘は、若者の言葉を受け入れたのか、其れ共、若者の怒りの浮かんだ顔を見ていなかったのか、クスリと釣られたように微笑むと、
 「流石、本所の若様と言った所で御座いますね。
本所のお家の躾は大層厳しいと聞いています。分家の若い者なら泣いて逃げ出す程だと聞いています。
一番優しそうな参之若様が其の様子ですと、お兄さま方はよほど恐ろしい方ではないかと思ってしまいます」
 「い、いや。それは多分違うと思いますよ小梅殿。
兄上達は、あれはあれで優しい所が有りますから、もしも小梅殿が困った事など相談なされば、きっと、任せて置けよと大層頼りと成るでしょう。
何分、私などと違ってあの厳つい体と迫力ですから、見た目で誤解されている事の方が多いでしょう」
 なにを言っているんだ自分は…
 家や兄の事を優しい等と言っても誰も信用しない。
 事実、厳しい躾は本当だろう。
 家柄にしても、恐れられる事こそが其の存在意義とも言える家なのだ…。
娘の言葉に返答しながら、若者は自分の言葉に白々しい嘘を感じた。
 「まぁまぁ、もしも其れが本当でしたら、私も困った事が有りましたら、本所の若様達を頼りましょう。
勿論、参之若様も、ご自分で仰言ったんですから、分家の私のような小娘の願いでも、きっと助けて頂けるのでしょう?」
若者の困ったような言いよどみながらの返答に、娘はコロコロ笑って子猫がジャレ付くように訊いてきた。
これには、若者も困ってしまったが、言ってしまった以上嘘とも言えぬ。
 「いやぁ、私では小梅殿の助けとなれるか判らぬが…」
と、心許ない返事をした。
 「何をおっしゃいます。私共分家の者にも、参之若様のご活躍は耳に入って参ります。
今はまだ、お家とお父上、お兄さま方の後ろで表には立ってらっしゃいませんが、先の丘の上の警護所の修理造営と破れた堤の修繕などに、大層その才を発揮なさったとか。
現場に立って指揮を取って立ち働いたのはお父上とお兄さま方と聞いていますが、その修繕の絵図を考え描き上げられたのは、三之若様だったと聞き及んで御座います。
今はまだ、一族の者の間にしか知られておりませんが、その内、領内の皆に知れる所と成るでしょう」
そう言って、若者を見た娘の瞳の片隅に、熱を秘めた濡れた影がチラリと浮かんで直ぐさま消え去った。

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